2024年4月30日に発売されたジャネット・スケスリン・チャールズによる『Miss Morgan's Book Brigade』(日本語意訳 ミス・モーガンの図書旅団)は、第一次世界大戦下のフランスを舞台に、実在した人物や出来事を基に、本と戦争、そして女性たちの勇気と連帯を描いた物語である。
物語は、1918年のフランスと1987年のニューヨークを舞台に、二人の女性司書、ジェシー・カーソンとウェンディ・ピーターソンの視点から交互に展開される。
1918年、ニューヨーク公共図書館の司書であるジェシーは、「荒廃したフランスのためのアメリカ委員会」(CARD)の創設者であるアン・モーガンから、フランス北部の前線近くに住む民間人のための図書館設立の依頼を受ける。当初は自分に務まるかと不安を抱くジェシーだったが、すぐに持ち前の情熱で仕事に打ち込み、特に地元の子供たちに本を届けることに尽力する。彼女は、爆撃で荒廃した村々を回り、子供たちに物語を読み聞かせ、図書館を作り、さらには救急車を改造した移動図書館を走らせるなど、精力的に活動する。
一方、1987年のニューヨークでは、新人作家を夢見るウェンディが、ニューヨーク公共図書館でCARDの記録文書をスキャンする仕事をしていた。彼女は、CARDの女性たちの物語に強く惹かれ、彼女たちの足跡を辿り始める。特に、戦後ニューヨーク公共図書館に戻らなかったジェシーの運命に、ウェンディは強い関心を抱く。
チャールズは、ジェシーの物語に多くの感動的な場面を散りばめている。例えば、ジェシーが愛読書である『赤毛のアン』のフランス語版をフランスの少女と共有する場面や、絶望的な状況の中で読書に慰めを見出す場面などである。これらの描写を通して、戦争の悲惨さの中で希望の光となる本の力、そして子供たちの心を豊かに育む読書の大切さが力強く伝わってくる。
本作の魅力は、戦争という極限状態における人々の心の葛藤や、女性たちの友情と連帯を繊細に描き出している点にある。ジェシー、アン・モーガン、アン・マレー・ダイク、そして他の多くのCARDの女性たちは、裕福な家庭出身者や専門職を持つ者など、様々なバックグラウンドを持つ女性たちだった。彼女たちは、危険と隣り合わせの戦場において、それぞれの能力を生かして献身的に活動し、フランスの人々を支援した。その姿は、困難な状況下でも決して希望を捨てず、自らの信念に基づいて行動する勇気と強さを私たちに教えてくれる。
著者は、CARDの女性たちの物語を掘り起こすために、10年の時間をかけて膨大な資料調査と執筆を行った。一次資料である彼女たちの書簡や報告書、当時の新聞記事、そして彼女たちの功績を称える記念碑や切手など、様々な資料を駆使することで、歴史の陰に埋もれていた女性たちの物語に光を当て、彼女たちの功績を現代に蘇らせた。
ジャネット・スケスリン・チャールズによる前作、2020年出版の『The Paris Library』(邦題:あの図書館の彼女たち)は、37の言語に翻訳され世界中で広く読まれている。前作は第二次世界大戦中のナチス占領下のパリでの出来事を扱っており、本作とも時代的なつながりを見出せる。著者のインタビューによると、次回作も異なる時代を生きる女性たちが、本を通じてどのようにつながり、困難な状況を乗り越えていくのかを描きたいと考えているようだ。
『Miss Morgan's Book Brigade』は、単なる歴史小説の枠を超え、文学の力を印象づけ、困難な状況で変化をもたらすための勇気を与えてくれる。戦争の影が広がる現代において、この物語は、私たちにとっても希望と勇気を抱かせるものとなるだろう。