2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『Memory Piece』3人のアジア系アメリカ人女性の視点で描かれる社会派ディストピア小説

バラク・オバマ前大統領が2024年夏のリーディングリストに選んだリサ・コーの著書『Memory Piece』は、3人の女性の数十年にわたる友情の浮き沈みを描いている。物語は友情、恋愛、ジェントリフィケーション(都市の高級化)、資本主義、ドットコムブームとそ…

『Martyr!』気鋭のイラン系詩人による自身の体験を投影したトラウマと再生の物語

バラク・オバマ前大統領の2024年夏リーディングリストに挙げられている『Martyr!』は、詩人としても知られるカヴェ・アクバルによる2024年のデビュー小説である。この小説はアルコール依存症の主人公が殉教者(Martyr)についての本を執筆する中での心情を描…

『Reading Genesis』旧約聖書巻頭の書 創世記に文学的な観点からアプローチした意欲作

バラク・オバマ前大統領が2024年夏のリーディングリストに挙げているマリリン・ロビンソン著『Reading Genesis』*1は旧約聖書巻頭の書である創世記に文学的な観点からアプローチした意欲作である。著者は小説『ギレアド』で2005年のピューリッツァー賞フィク…

『Everyone Who Is Gone Is Here』アメリカ移民政策の失敗を中米からの亡命者や移民たちの物語から紡ぎ出す

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに挙げられている、ひときわ噛みごたえのあるノンフィクション『Everyone Who Is Gone Is Here: The United States, Central America, and the Making of a Crisis』*1は、アメリカと中米の移民問…

『There's Always This Year』気鋭の評論家によるバスケットボールを介した社会批評

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに、ハニフ・アブドゥルラキブ著『There's Always This Year: On Basketball and Ascension』が挙げられていた。著者は気鋭の評論家・エッセイスト・文化評論家・詩人と多彩な肩書を持つ人物だ。と…

『The God of the Woods』1975年のサマーキャンプで起きた少女失踪事件から描き出すアメリカ階級社会の現実

2024年7月に発売されたリズ・ムーアの最新作『The God of the Woods』は、1975年のアディロンダック山脈を舞台に、階級、家族の秘密をテーマにした心理サスペンス小説である。 物語は、裕福なヴァン・ラー家が経営するサマーキャンプ、キャンプ・エマーソン…

『Kairos』東ドイツの崩壊と年の離れた男女の恋愛模様を重ねた2024年国際ブッカー賞受賞作

2023年6月に英訳され、2024年国際ブッカー賞を受賞したジェニー・エルペンベックの最新作『Kairos』は、1980年代末の東ベルリンを舞台に、19歳の学生カタリーナと53歳の作家ハンスの恋愛関係を描いた小説である。しかし、この作品は単なる恋愛小説にとどまら…

『Headshot』女性の身体性を女子ボクシングの全米大会を通して描き出す

2024年3月に発売されたリタ・ブルウィンケルの小説『Headshot』は、女性の身体性と競技スポーツの世界を鮮烈に描き出した意欲作である。舞台となるのは、ネバダ州リノで開催される18歳以下の女子を対象にしたボクシングの全米大会。8人の10代の女子ボクサー…

『My Friends』3人の亡命リビア人が選ぶ運命と友情の行末を描いた物語

ヒシャーム・マタールの小説『My Friends』は、政治的激動と個人の運命が交錯する現代社会の縮図を、3人のリビア人男性の友情を通して描き出した傑作である。1984年のロンドンでの銃撃事件から2011年のアラブの春を経て現在に至るまでの約40年間を舞台に、亡…

『Stone Yard Devotional』修道院で暮らし始めた中年女性に訪れる内なる旅路を描く

2023年10月に発売されたシャーロット・ウッドの最新作『Stone Yard Devotional』は、静謐さと内省的な深みを兼ね備えた傑作である。この小説は、現代社会の喧騒から逃れ、オーストラリアの田舎にある修道院に身を寄せた一人の女性の物語を通じて、信仰、共同…

『Playground』フランス領ポリネシアで交錯するテクノロジーと自然環境の未来

2024年9月に発売されるリチャード・パワーズの新作『Playground』は、テクノロジーと自然環境の関係性を巧みに描き出した壮大な物語である。パワーズは、一見無関係に見える登場人物たちの人生を通して、現代社会が直面する重要な問題を浮き彫りにしている。…

『Orbital』国際宇宙ステーションに滞在する6人の宇宙飛行士の1日を描く

2023年11月に出版されたサマンサ・ハーベイの最新作『Orbital』は、宇宙という極限の環境を舞台に、人間の本質と地球との関係性を探求する小説である。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する6人の宇宙飛行士の1日を描いたこの作品は、科学的な正確さと文学…

『The Safekeep』戦後オランダの田舎を舞台に二人の女性の人生が重なる

2024年5月に出版された『The Safekeep』は、ヤエル・ファン・デル・ウォウデン(Yael van der Wouden)による印象的なデビュー作である。第二次世界大戦後のオランダの田舎を舞台に、複雑な人間関係と歴史の重みを巧みに描き出した作品だ。この小説は、主人…

『This Strange Eventful History』祖国フランス領アルジェリアを失った一族の70年に渡る家族の歴史

2024年5月に発売されたクレア・メスードの新作小説『This Strange Eventful History』は、20世紀後半の激動の時代を背景に、一家族の70年にわたる物語を描いた壮大な叙事詩である。この作品は、メスード自身の家族の歴史に深く根ざしており、特にフランス領…

『Enlightenment』ハレー彗星の出現と共に信仰と世俗の間で葛藤する男女を描く

2024年5月に発売されたサラ・ペリーの最新作『Enlightenment』は、20年以上にわたる時間を通して、信仰と科学、愛と喪失の複雑な関係を探求する物語である。イギリスのエセックス州にある架空の町オールドリーを舞台に、厳格なバプテスト教会で育った主人公…

『Held』第一次世界大戦から2025年までの時間軸を行き来する非線形の詩的小説

2023年11月に発売されたアン・マイクルズの新作『Held』は、壮大なスケールと繊細な洞察力を併せ持つ、極めて野心的な小説である。第一次世界大戦から2025年に至るまでの約1世紀にわたる4世代の物語を通じて、著者は戦争、愛、喪失、記憶、そして人間のつな…

『Creation Lake』スパイ小説の皮を被った現代社会への鋭い批評

2024年9月に発売されるレイチェル・クシュナーの最新作『Creation Lake』は、スパイ小説の形式を借りながら、現代社会への痛烈な批判と人類の本質に迫る哲学的な問いかけを巧みに織り交ぜた、極めて野心的な作品である。1968年生まれのクシュナーは、『Telex…

『Wild Houses』アイルランドの小さな街を舞台にした誘拐事件があぶり出す人間の孤独と葛藤

2024年1月に発売されたコリン・バレットの長編デビュー作『Wild Houses』は、アイルランドの小さな街バリーナを舞台に、身代金目的の誘拐事件を軸に展開される物語である。しかし、この小説は単なる犯罪小説の枠を超え、現代社会における普遍的なテーマを鋭…