『Knife』サルマン・ラシュディが2022年に経験した暗殺未遂事件を振り返る回想録

2024年4月16日に発売されたサルマン・ラシュディの回想録『Knife: Meditations After an Attempted Murder』(ナイフ:暗殺未遂後の瞑想)は、著者が2022年8月12日にニューヨーク州シャトークア研究所で受けた襲撃の詳細とその後の出来事を描いている。また2…

『跑去她的世界』妻子を亡くしたマラソンランナーがテクノロジーを使って現実逃避する中国SF小説

2024年8月に発売された『跑去她的世界』(彼女の世界へ駆ける)は、四川省出身1991年生まれのSF作家・夏桑による初の長編小説である。夏桑は現在、成都に在住している。物語の主人公は、負傷したマラソンランナーであり、彼が走るたびに亡き妻の姿を見るとい…

『Primary Trust』生きづらさを抱えた主人公が一歩踏み出すまでを描くピューリッツァー賞戯曲賞受賞作

2024年ピューリッツァー賞戯曲部門を受賞したエボニー・ブースの『Primary Trust』は、2023年5月から7月までオフブロードウェイで初演された作品である。主演はウィリアム・ジャクソン・ハーパー、演出はクヌート・アダムスが手がけ、批評家からも高い評価を…

『No Right to an Honest Living』南北戦争時代の黒人労働者が直面した経済格差を明らかにするピューリッツァー賞歴史部門受賞作

ジャクリーン・ジョーンズの『No Right to an Honest Living: The Struggles of Boston’s Black Workers in the Civil War Era』(正直な生計を立てる権利なし: 南北戦争時代のボストン黒人労働者の闘い)は、2024年ピューリッツァー賞歴史部門を受賞した。…

『Night Watch』南北戦争を生き延びた母娘の絆を描くピューリッツァー賞フィクション部門受賞作

2023年9月19日に発売されたジェイン・アン・フィリップスの小説『Night Watch』は、南北戦争直後のウェストバージニア州を舞台に、戦争が残した深い傷跡と人々がどのように向き合っていくかを鮮やかに描いた作品であり、2024年ピューリッツァー賞フィクショ…

全米図書賞 小説部門ロングリストにノミネートされた作品まとめ(2024年版)

2024年9月13日に今年の全米図書賞のロングリストが発表されました。全米図書賞(National Book Awards)は、アメリカ合衆国で毎年開催される文学賞で、最も権威ある文学賞の一つとされています。アメリカ文学の発展を目的に、1950年に設立されたこの賞は、フ…

『Rejection』アジア系アメリカ人の拒絶体験を7つの短編から浮き彫りにする短編集

2024年9月17日に発売されたトニー・トゥラティムットの短編集『Rejection』は、現代社会における「拒絶」というテーマを、オンライン文化とアイデンティティの視点から描き出し、注目を集めている。この短編集は、恋愛、セックス、アイデンティティ、人間関…

『Yr Dead』トランプタワーの前で抗議の焼身死を遂げるユダヤ人青年の心情を描く

2024年8月6日に発売されたサム・サックスの『Yr Dead』は、ユダヤ系でクイアの主人公エズラの視点で語られる、クイアとディアスボラの成長物語である。エズラは2016年、トランプタワー前で抗議のために焼身自殺を遂げ、その短い人生に幕を下ろす。この小説は…

『All Fours』40代女性の身体性とセクシュアリティに向き合うミランダ・ジュライ最新作

2024年5月14日に発売されたミランダ・ジュライの『All Fours』は、ロサンゼルスに住む女性アーティストが、結婚生活や母性における停滞感から抜け出そうとする物語である。この小説は、40代女性が結婚、母性、更年期、そしてセクシュアリティに向き合う赤裸…

『The Most』1950年代アメリカの家庭に押し込められた女性の葛藤を描く

2024年7月30日に発売されたジェシカ・アンソニーによる『The Most』は1950年代のアメリカはデラウェア州ニューアークのアパートを舞台に、一見完璧に見える結婚生活を送る若い夫婦、キャスリーンとヴァージルの一筋縄ではいかない関係性を描いている。 1957…

『Ghostroots』ナイジェリアの首都ラゴスを舞台にした不気味さが魅力の短編集

2024年5月7日に発売されたナイジェリア出身の小説家 ペミ・アグダによる『Ghostroots』は、12の短編からなる短編集である。どの物語でも、登場人物たちは先祖とのつながりからの自由を求め、葛藤する姿が描かれている。舞台はすべてナイジェリアの首都ラゴス…

『Night Flyer』新20ドル札に描かれる黒人奴隷解放活動家に注目する歴史ノンフィクション

2024年6月18日に発売された『Night Flyer: Harriet Tubman and the Faith Dreams of a Free People』(ナイト・フライヤー:ハリエット・タブマンと奴隷制度から解放された人々の信仰の夢)は、ハーバード大学の歴史学教授であるティア・マイルズによる評伝…

ビル・ゲイツによる夏の推薦図書リストまとめ(2024年版)

2024年5月21日にビル・ゲイツが自身のブログに投稿した記事『5 great things to read or watch this summer』(この夏に読むか見るのにおすすめの5つの素晴らしい作品)が反響を呼んでいます。この記事で取り上げられた書籍のアマゾンページには「ビル・ゲイ…

ブッカー賞ロングリストにノミネートされた作品まとめ(2024年版)

2024年7月30日、英国最高峰の文学賞とも評されるブッカー賞のロングリストが発表されました。ブッカー賞には50年の歴史があり、英語で書かれた長編小説の中から優れた文学作品にこの賞が与えられます。今年度は13冊がロングリストにノミネートされています。…

バラク・オバマ前大統領による夏の推薦図書リストまとめ(2024年版)

本ブログではバラク・オバマ前大統領が2024年夏の読書リスト(リーディングリスト)で取り上げた書籍を紹介してきました。今回はその書籍紹介記事を一つにまとめます。2024年時点では挙げられている14冊すべてが未邦訳ですが、ブッカー賞や全米図書賞のロン…

『How to Know a Person』NYTのオピニオンコラムニストが提案する他者と良好な関係を構築する方法

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書リストに挙げられているデイヴィッド・ブルックス著『How to know a person: the art of seeing others deeply and being deeply seen』(人を知る方法:他者を深く見て、他者から深く見られる技術)は、いわゆるセ…

『Brave New Words』サルマン・カーンがAIと教育の楽観的な未来を語る一冊

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書リストに挙げられている『Brave New Words: How AI Will Revolutionize Education (and Why That’s a Good Thing)』(すばらしい新たな言葉:AIが教育に革命を起こす理由(そしてそれが良いことである理由))は、カ…

『Infectious Generosity』TEDのキュレーターが考える“伝染する寛容さ”で社会を変える方法

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書・ドラマリストに挙げられている『Infectious Generosity: The Ultimate Idea Worth Spreading』(伝染する寛容さ:広める価値のある究極のアイディア)は、著者のクリス・アンダーソンが寛容性が持つ秘めた力と、そ…

『The Woman』ベトナム戦争の影に隠れていた従軍看護師たちの奮闘を描く歴史小説

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書・ドラマリストに挙げられている『The Woman』はクリスティン・ハンナによるベトナム戦争の時代の従軍看護師を主人公にした歴史小説である。 主人公は若い女性 フランシス・マクグラス(通称フランキー)。物語は19…

『Nexus』ユヴァル・ノア・ハラリが読み解く情報ネットワークの歴史とAI時代への鋭い警鐘を鳴らす一冊

2024年9月10日に発売された『Nexus: A Brief History of Information Networks from the Stone Age to AI』(ネクサス:石器時代からAIまでの情報ネットワークの歴史)は、イスラエルの歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリによる最新作となる。彼のこれまで出版…

『Help Wanted』大型量販店の早朝品出しチームで働く人々の連帯と尊厳をユーモアを交えて描く

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに挙げられていたアデル・ウォルドマンの小説『Help Wanted』は、コストコに似た大型量販店を舞台に、そこで働く従業員の物語を描いている。 舞台となる量販店は、最初にショッピングモールによっ…

『The Wide Wide Sea』探検家ジェームズ・クックの負の遺産に新たな光を当てる歴史ノンフィクション

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに含まれていた『The Wide Wide Sea: Imperial Ambition, First Contact and the Fateful Final Voyage of Captain James Cook』(広大な海: 帝国の野望、初接触、そしてジェームズ・クック船長の…

『Of Boys and Men』“有害な男らしさ”から“成熟した男らしさ”へ。マスキュリニティを考える一冊。

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに挙げらていた『Of Boys and Men: Why the Modern Male Is Struggling, Why It Matters, and What to Do about It』(少年と男性:現代の男性がなぜ苦境に立たされているのか、なぜそれが問題なの…

『When the Clock Broke』分断されるアメリカ政治の源流は1990年代にあると指摘した注目のノンフィクション

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストで取り上げられた『When the Clock Broke: Con Men, Conspiracists, and How America Cracked Up in the Early 1990s』(時計が壊れたとき:詐欺師、陰謀論者、そして1990年代初頭にアメリカが崩壊…

『Beautiful Days』現代社会を斜めに見る不穏でシュールな短編集

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストで取り上げられた『Beautiful Days』はザック・ウィリアムズのデビュー短編集である。本作は親であること、死、現代社会における不安、現実と非現実の境界線を探求する、不穏でシュールな10編の物…

『The Ministry of Time』タイムトラベルSFに現代的なテーマを盛り込んだエンタメ小説

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに挙げられている『The Ministry of Time』はカリアン・ブラッドリーによるデビュー作である。この作品を短い言葉で表現するなら“タイムトラベルを題材にしたSF“と言えるだろう。しかしこの小説は…

『Memory Piece』3人のアジア系アメリカ人女性の視点で描かれる社会派ディストピア小説

バラク・オバマ前大統領が2024年夏のリーディングリストに選んだリサ・コーの著書『Memory Piece』は、3人の女性の数十年にわたる友情の浮き沈みを描いている。物語は友情、恋愛、ジェントリフィケーション(都市の高級化)、資本主義、ドットコムブームとそ…

『Martyr!』気鋭のイラン系詩人による自身の体験を投影したトラウマと再生の物語

バラク・オバマ前大統領の2024年夏リーディングリストに挙げられている『Martyr!』は、詩人としても知られるカヴェ・アクバルによる2024年のデビュー小説である。この小説はアルコール依存症の主人公が殉教者(Martyr)についての本を執筆する中での心情を描…

『Reading Genesis』旧約聖書巻頭の書 創世記に文学的な観点からアプローチした意欲作

バラク・オバマ前大統領が2024年夏のリーディングリストに挙げているマリリン・ロビンソン著『Reading Genesis』*1は旧約聖書巻頭の書である創世記に文学的な観点からアプローチした意欲作である。著者は小説『ギレアド』で2005年のピューリッツァー賞フィク…

『Everyone Who Is Gone Is Here』アメリカ移民政策の失敗を中米からの亡命者や移民たちの物語から紡ぎ出す

バラク・オバマ前大統領による2024年夏のリーディングリストに挙げられている、ひときわ噛みごたえのあるノンフィクション『Everyone Who Is Gone Is Here: The United States, Central America, and the Making of a Crisis』*1は、アメリカと中米の移民問…