『Playground』フランス領ポリネシアで交錯するテクノロジーと自然環境の未来

2024年9月に発売されるリチャード・パワーズの新作『Playground』は、テクノロジーと自然環境の関係性を巧みに描き出した壮大な物語である。パワーズは、一見無関係に見える登場人物たちの人生を通して、現代社会が直面する重要な問題を浮き彫りにしている。

物語は、12歳のエヴィ・ボーリューがモントリオールのプールで世界初のスキューバダイビング機材を装着する場面から始まる。この経験は、エヴィの人生に深い影響を与え、海洋生物への畏敬の念を育むきっかけとなる。

一方、シカゴのエリート高校では、ラフィ・ヤングとトッド・キーンという正反対の性格を持つ2人の少年が出会う。彼らは「碁」を通じて友情を育むが、大学進学とともに彼らの道は分かれていく。ラフィは文学の世界に没頭し、トッドは人工知能の分野で驚くべき成果を上げていく。

物語の第三の軸となるのが、太平洋の海軍基地で育ったイナ・アロイタである。タヒチ人の母を持つイナにとって、芸術は唯一の心の拠り所であった。後に彼女は環境問題に関心を持つようになる。
これら4人の人生が交差する舞台が、フランス領ポリネシアのマカテア島である。かつてリン鉱石の採掘で栄えたこの島は、現在では人口わずか82人の小さなコミュニティとなっている。しかし、この島が人類の次なる大冒険の舞台として選ばれる。それは、海上に浮かぶ自律的な都市を建設し、公海に送り出すという壮大な計画である。

物語は、57歳になったトッドがレビー小体型認知症と診断された後、過去の出来事を振り返るという形で展開される。トッドは「あなた」という特定されない誰かに語りかけながら、自身の人生と、ラフィやイナとの関係、そしてAI開発の倫理的影響について省察する。

一方、マカテア島では、エヴィ、ラフィ、イナが再会し、島の未来を左右する重大な決断に直面する。島民たちは、海上都市建設計画を承認し、シーステダー(海上都市建設者)を受け入れるか、それとも拒否するかを決めなければならない。この決断は、島の環境と、ひいては人類の未来にも大きな影響を与える可能性を秘めている。

パワーズは、これらの人物たちの人生と決断を通して、テクノロジーの進歩と環境保護のバランス、人間の創造性とAIの発展、そして個人の選択が社会に与える影響など、現代社会が直面する重要な問題を探求していく。

この設定を通して、テクノロジーの進歩がもたらす可能性と、それが環境に与える影響という、現代社会が抱える根本的な問題を提起している。海上都市の建設は、人類の技術的進歩を象徴する一方で、自然環境への新たな侵食を意味する。この対立は、単に一つの島の問題ではなく、地球規模で我々が直面している課題を反映しているのである。

また、本作では人工知能の発展についても深く掘り下げられている。トッドが開発した画期的なAI技術は、人類に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。しかし同時に、それは人間の存在意義や創造性の本質に対する問いかけでもある。トッド自身が認知症と診断されるという設定は、人間の脆弱性と、技術によって克服しようとする人間の欲求との間の緊張関係を浮き彫りにしている。

パワーズの文体は、科学的な正確さと詩的な美しさを兼ね備えている。彼は複雑な科学的概念を、一般読者にも理解できるように巧みに説明しながら、同時に人間の感情や自然の神秘さを豊かな言葉で表現している。この独特の文体により、読者は知的刺激と感情的な共感を同時に体験することができる。

『Playground』は、単なるSF小説や環境小説の枠を超えた作品である。それは、人類の進歩と自然との共生、個人の夢と社会の要請、過去の遺産と未来への展望など、多層的なテーマを包含している。パワーズは、これらの複雑な問題に対して明確な答えを提示するのではなく、読者自身に考えさせる余地を残している。発売を期待して待ちたい。