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『Brave New Words』サルマン・カーンがAIと教育の楽観的な未来を語る一冊

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書リストに挙げられている『Brave New Words: How AI Will Revolutionize Education (and Why That’s a Good Thing)』(すばらしい新たな言葉:AIが教育に革命を起こす理由(そしてそれが良いことである理由))は、カーン・アカデミーの設立者であるサルマン・カーンがAIが教育に与える影響について考察した一冊である。

著者はAIが教師に取って代わるものではなく、教師が生徒とより深く関わるための時間を与えるツールになると考える。採点、進捗レポート、授業計画の作成などの反復的なタスクを自動化することで、教師が指導やメンタリングに集中できるようになる。さらに、AI搭載の個別指導システムは、個々の生徒のニーズに合わせて学習をパーソナライズすることで、教師が生徒一人一人の学習進捗をより深く理解できるようにする。このパーソナライズされたサポートにより、教師は生徒ごとに強みと弱みをより的確に把握し、より的を絞った指導を提供することができる。

生徒同士の協調性の向上もAIがもたらすプラスの側面だと著者は主張する。AI搭載のツールは生徒同士を結びつけ、共同作業を促進し、互いに学び合うためのインタラクティブな学習環境を提供する。AIは生徒の学習進捗に関する分析を提供することもでき、生徒同士が強みと弱みを補完し、互いに助け合うよう促すものとなる。また、生徒の学習進捗に関するリアルタイムのフィードバックは親にも提供され、親と教師の有意義な話し合いを促進することも可能になる。この透明性により、親は子供の教育に積極的に関与することができる。

カーン・アカデミーは既に「Khanmigo」と呼ばれるAIを活用した教育プラットフォームを実用化し、生徒に提供している。新たなシステムを用いて、個別指導、ソクラテスメソッド、多様な学習体験、教師へのサポートを従来の教育の枠を超えたレベルで実現している。

しかし課題もある。生徒が「Khanmigo」を使って宿題をしたり、作文を書いたりする可能性は排除できない。このプラットフォームには不正行為を防ぐための対策を講じているが、完全に排除することは難しい側面もある。さらに、生徒の学習状況や進捗に関するデータを収集することも個人情報漏洩のリスクと背中合わせである。もっぱら生徒の学習を支援する目的で収集され使用されるものだが、プライバシーの保護をどこまでしっかり行えるかも重要な課題と言えるだろう。

とはいえ、サルマン・カーンはAIが教育にもたらす影響をポジティブに捉えている。彼はAIが地理的、経済的な障壁を取り払い、すべての人に質の高い教育を提供できると信じている。その主張の根底にあるのは、すべての人が質の高い教育を受ける権利があり、AIはその実現を大きく前進させる力を持っているという信念だ。従来の教育システムが抱える、機会の不平等やリソースの不足といった問題を、「AIが解決する」ではなく「AIで解決する」という決意が満ち溢れている。

『Brave New Words』という書名は、オルダス・ハクスリーの小説『Brave New World』(すばらしい新世界)から来ていることは明白である。ハクスリーは機械文明の発達による繁栄を享受する一方で、自らの尊厳を見失う人類社会をディストピア小説として描いている。著者はあえてこの書名にすることで、AI技術の進歩が人々に連想させる負の側面を逆手に取り、ポジティブな側面を社会に訴えようとする意図があるのかもしれない。我々が考えるよりも速いスピードで変化する社会において、本書はさらにその先を意識させる一冊と言えるだろう。