『How to Know a Person』NYTのオピニオンコラムニストが提案する他者と良好な関係を構築する方法

ビル・ゲイツが投稿した2024年夏の推薦読書リストに挙げられているデイヴィッド・ブルックス著『How to know a person: the art of seeing others deeply and being deeply seen』(人を知る方法:他者を深く見て、他者から深く見られる技術)は、いわゆるセルフヘルプ系の書籍である。著者は、20年にわたりニューヨーク・タイムズのオピニオンコラムニストを務め、PBS NewsHourにも定期的に出演している。

本書は、どのようなきっかけで執筆されたのか。ブルックスは、現代社会において人々が以前よりも孤独を感じ、互いに繋がることが難しくなっていることを問題視している。特にソーシャルメディアスマートフォンの普及は、人々の対面でのコミュニケーションを減少させ、真の繋がりを阻害していると主張する。また、政治的分極化、経済格差、文化の多様化が、社会の分断を加速させているとも指摘する。これにより、人々の間に溝が広がり、異なる立場や背景を持つ人々が、互いに理解し合い、共存していくことが難しい時代になっているのだ。

さらに、現代では多くの人々が感情を抑圧し、本音を隠すことが美徳とされる風潮がある。競争社会の中で、人々は弱さや脆さを見せることを恐れ、常に完璧に振る舞おうとする。その結果、感情を閉ざし、他者の気持ちを理解し、寄り添うことができなくなっている。これが、個人レベルから社会全体に至るまで、他者との関係がぎすぎすし、攻撃的な言動が増加する原因となっている。

ブルックスは、すべての人間が「ありのままの自分」を認められ、受け入れられることを渇望していると述べる。彼はこれを「見られること」と表現し、人々が互いに「見る」、そして「見られる」経験を通してこそ、自己肯定感や幸福感を得ることができると説く。しかし、現代社会では効率性や生産性が重視され、「見られること」の重要性が軽視されている。人々は他者を深く理解するための時間や労力を惜しみ、表面的な付き合いに終始してしまう。

本書によれば、「見られること」は単なる承認欲求ではなく、人間として生きる上で欠かせない欲求である。そして、他者を深く「見る」こと――その人の個性や価値観、感情に心を向けること――が、より人間らしい温かい社会を築くことにつながるのだ。

では、どうすれば他者を深く理解し、繋がりを築けるのか。ブルックスは「見る」「共に過ごす」「対話する」「賢くなる」の4つの段階に分け、それぞれの段階で必要なスキルを提案している。

まず「見る」こと。ブルックスは「人間関係は最初のまなざしから始まる」と強調する。初対面の相手と会う時、私たちは無意識に「この人は私に親切にしてくれるだろうか」「私はこの人にとって価値のある存在だろうか」といった問いを投げかけているという。その答えは、言葉より先に目を通して相手に伝わる。だからこそ、相手を値踏みしたり、欠点を探したりするのではなく、温かさと敬意を持ってまなざしを向けることが大切だ。そうすることで、相手に安心感や自己肯定感を与えるとともに、相手の表情や仕草、声のトーンや言葉遣いなど、あらゆる情報を観察することができる。

次に「共に過ごす」。この段階では、必ずしも深い話をする必要はない。ただ一緒に時間を過ごすこと自体が、相手との心の距離を縮める上で重要である。相手に「寄り添うこと」を意識し、喜びや悲しみを分かち合う。そしてどんな状況下でも、その人の味方であることを態度で示す。たとえ相手の状況を完全に理解できなくても、「寄り添う」姿勢を示すだけで、相手に安心感と勇気を与えることができるのだ。

次の段階は「対話する」である。心を通わせるために、一方的に話すのではなく、会話を通して互いの理解を深めることが必要だ。相手を深く知るためには、適切な質問をすることが重要だとブルックスは述べている。「なぜそう思ったのか」「どんな時にそう感じるのか」といった質問は、相手の経験や感情、価値観を深く理解するための手助けとなる。そして、質問をしたなら相手の話を最後まで聞く。相槌や復唱を効果的に用いることで、相手は「自分の話が理解されている」「受け入れられている」と感じ、より安心して話せるようになる。

最後の段階は「賢くなる」である。他者を深く理解し、真につながるためには、自分自身の内面を見つめることが必要だ。ブルックスは、文学、歴史、哲学、心理学、宗教など、様々な分野の知識を深めることが他者理解に役立つと説く。多様な価値観や考え方、生き方に触れることで、視野が広がり、共感力も高まる。同時に、自分の強みや弱み、価値観を客観的に見つめることも欠かせない。著者は日記を書いたり、瞑想を取り入れることも、自分を見つめ直すための有効な手段だと提案している。

これらの方法は、傾聴やアクティブリスニングのハウツーと似ている部分もある。しかし、アメリカ政治や世界情勢を見ると、人類は他者との良好な関係を再び学び直す必要があるように思える。ブルックスが唱える「人を知る方法」を実践することが、今まさに求められている。