『All Fours』40代女性の身体性とセクシュアリティに向き合うミランダ・ジュライ最新作

2024年5月14日に発売されたミランダ・ジュライの『All Fours』は、ロサンゼルスに住む女性アーティストが、結婚生活や母性における停滞感から抜け出そうとする物語である。この小説は、40代女性が結婚、母性、更年期、そしてセクシュアリティに向き合う赤裸々な探究を描いている。

主人公は45歳の女性で、名前は明かされない。結婚し、子供もいるが、彼女は自分の人生に疑問を抱き始めている。かつて短編を書いて得た2万ドルを手に、ロサンゼルスからニューヨークへの旅に出かけようと決心する。しかし、出発して30分も経たないうちに高速道路を降り、近くのモーテルにチェックインする。そこで彼女は、31歳のヒップホップダンサーを志す若い男性と出会い、次第に彼に惹かれていく。

この小説には、主人公の夫が語る「ドライバー」と「パーカー」という二つのタイプが重要なキーワードとして登場する。ドライバーは、日常生活においても意識を集中させ、小さな喜びを見出せるタイプである。一方、パーカーは、常に周囲の賞賛を求め、それが得られないと退屈しやすい。主人公は自分がパーカーであることに気づき、それが無気力さや夫婦生活のマンネリ化の原因だと考え始める。

主人公のニューヨークへの旅は、パーカー的な自分から脱却し、ドライバーのように自由で充実した人生を手に入れたいという願望を象徴している。ドライバーになれば、退屈な日常から解放され、夫や子供との関係も改善できると期待している。しかし、旅の途中でモーテルに寄り、若い男性との情熱的な不倫に陥ることで、彼女はドライバーへの憧れを持ちながらも、パーカー的な衝動―すなわち刺激や注目を求める欲望に抗えないことが明らかになる。

物語が進むにつれて、主人公はパーカーである自分を受け入れ、社会の枠に縛られない、自分らしい生き方を模索し始める。従来の結婚や人間関係の形にこだわらず、より自由で多様な関係を築きたいと考えるようになるのだ。

本作では、主人公が抱く強い性的欲望と、それが彼女の行動に及ぼす影響が、現実と空想の対比、身体性への目覚め、年齢に対する不安と解放といったテーマを通して描かれている。彼女は夫とのセックスの際、空想に逃げることで現実の親密さを避けている。夫との性的接触は、義務感や習慣に基づくものであり、その間、彼女は心の中で見知らぬ相手との官能的な空想に浸っている。この空想は、彼女が現実の欲望に向き合うことから目を背け、理想の性的関係を空想に求めていることを示唆している。

しかし、若い男性との関係を通じて、主人公は初めて肉体的な親密さを心から経験する。これまで気づかなかった自分の身体感覚や官能性に目覚め、未経験の快感を味わうようになる。これは、彼女が空想から現実へと引き戻され、自分の身体と欲望を受け入れていく過程である。

45歳を迎えた主人公は、老いと肉体の衰えに不安を感じている。特に臀部の形の変化や腹部のたるみにショックを受けるが、若い男性との関係を通じて、年齢を重ねた自分の体にも魅力を感じるようになり、解放感を得る。この経験は、社会が求める美の基準や年齢に対する固定観念から彼女を解き放ち、自己の身体とセクシュアリティを肯定的に捉え直す契機となる。

ミランダ・ジュライは、本作が中年期を迎える女性たちに、自分の人生や人間関係、欲望について深く考える機会を提供することを期待している。インタビューでは、中年期の女性に対する社会の厳しい目を指摘し、主人公が感じる肉体の衰え、性的欲求の再燃、そして他者の目を意識する感情は、多くの女性が共感できるものだろう。ジュライはこの物語を通じて、年齢や身体、セクシュアリティに対する固定観念を問い直し、より自由で自分らしい生き方を考えるきっかけを読者に提供したいと考えているようだ。

『All Fours』というタイトルは、動物が四つん這いになる姿を連想させる。これは、主人公が社会的な束縛や伝統的な価値観から解放され、本能的で自由な存在になろうとする姿を象徴しているのかもしれない。あるいは、彼女が経験する変容や目指すべき自然で自由な生き方を暗示しているのだろう。邦訳が出版された際には、その点にも注目して読み進めたい。